「個人の病気」が克服されたとき、社会の構造そのものが変わる。
これは歴史の話だけではない。あなた自身の健康もまた、組織の構造に直結している。
歴史を振り返れば、健康問題によって「その人でなければならなかった」指導者が表舞台を去り、組織の命運が大きく変わった場面は少なくない。一方で、危機をいち早く自覚し、能動的に対処することで組織を守り抜いたリーダーもいる。
Intelの伝説的CEO、アンドリュー・グローブはその筆頭だ。1995年、彼は前立腺がんの診断を受けた。しかし彼が取った行動は、経営者としての本能そのものだった-医学論文を自ら読み込み、複数の専門家のセカンドオピニオンを取り、最善の治療法を自分で選択したのだ。グローブはその経験をビジネス誌に寄稿し、「経営者こそ、自分の健康に対して最も能動的な意思決定者であるべきだ」と訴えた。自社の経営判断に全力を注ぐのと同じ姿勢で、自分の身体と向き合った指導者の言葉は重い。
経営者や管理職が長期離脱した場合、組織にはどのような影響が出るか。意思決定の遅延、戦略の停滞、現場の士気低下、そして取引先や投資家の信頼喪失-数字には現れにくいが、これらのコストは決して小さくない。
たとえば、ScienceDirectに掲載された研究(2023年)では、CEOの医療休暇が公表された際、株主は概してその情報を「悪材料」として受け取り、特に業績の良いCEOの健康問題ほど株価への悪影響が大きいことが示されている。また、米ノートルダム大学とジョージア大学の共同研究(Strategic Management Journal掲載)によれば、CEOの突然死に際し、1990年から2009年の間に平均で約9%もの異常株価変動が生じたと報告されている。仮に時価総額1,000億円の企業であれば、それだけで約90億円規模の価値変動が起きる計算だ。上場企業であれば翌朝の株価にそのまま反映され、非上場企業であっても、意思決定の空白が長期化することで商談の遅延、人材の流出、取引先との関係悪化といった目に見えないコストが積み上がっていく。「社長が倒れた」というただその一事が、組織全体を揺るがすのである。
リーダーの健康は、個人の問題である以前に、組織のリスク管理の問題だ。
問題をさらに複雑にするのは、エグゼクティブ層が抱えやすい疾患の多くが、初期に自覚症状を持ちにくい点だ。
なかでも近年注目されているのが腸内環境の乱れである。過密なスケジュール、睡眠不足、会食の多い食生活、慢性的なストレス-これらはすべて腸内フローラを乱す要因となる。腸は「第二の脳」とも呼ばれ、免疫機能・精神状態・集中力・睡眠の質に至るまで、全身のコンディションに深く関与している。パフォーマンスの微妙な低下、判断の鈍り、慢性的な疲労感。これらは「忙しいから仕方ない」と見過ごされがちだが、その根本に腸内環境の問題が潜んでいるケースは少なくない。
グローブが医学論文を読み込んで自ら治療法を選択したように、エグゼクティブに求められるのは健康に対しても「経営判断」と同じ解像度で向き合う姿勢だ。予防的・継続的に自分の腸内環境を把握し、食事・生活習慣を最適化すること。それはもはや自己管理の努力目標ではなく、経営責任の一部として捉えるべき時代に来ている。
自分の健康が、チームの未来を左右する。
その認識こそが、真のエグゼクティブに求められる視点ではないだろうか。あなたの腸の状態を、今一度、見直してみてほしい。
